東京地方裁判所 昭和35年(ワ)5279号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告は東京都教育協会の代表者、理事長代理と称していた被告伊藤とにたいし、電機製品を販売し、売掛残代金が金一、三五四、九四二円となつた。みぎ協会は一向に残代金を支払わないで調査したところ、協会とは名ばかりで法人格がないのみならず、総会や理事会もなく、被告伊藤以外の理事も名目だけで、その事務経理一切が被告伊藤個人の独断専行によつて行われていることが判明し、この協会はいわゆる権利能力なき社団ということはできないから、結局被告伊藤個人が協会の名目のもとに、原告と本件売買契約及びそれに伴う取引をなしたものということができるので被告伊藤個人にたいし残代金の支払を求める、と主張した。被告は本案前の抗弁として、みぎ協会は権利能力なき社団であるから被告伊藤個人は被告たる適格を有しないから、本訴に却下されるべきである、と主張し、本案につき協会は自ら取引をしたものでなく、原告と購入者間のあつせんをしたものである、と主張した。
判決は、つぎに示すような事実から本件協会は社団法理を適用しうる程度の実体をそなえ、いわゆる権利能力なき社団とはいえない団体であると認定した上、当該団体の代表者してなした取引についてはその代表者は個人として履行の責任があると判断した。曰く。
「(一)被告伊藤は昭年三一年頃都内の教職員に対し、東京都教育協会設立の趣意とその定款案とを印刷した書面(乙第一号証)を配付し、協会の設立に賛同を求めるとともに協会員を募集し、まず自から協会の「理事長代理」と称し、事務所を被告伊藤の勤務先である堀船小学校内に置き(その後二ケ所移転した。)、事務員四名を使用して、協会の業務については被告伊藤が一切を掌握していた。そして右協会設立の趣意に賛同した者の中から十数名を名目上の理事とし、理事会と称する会合をときどき開催して被告伊藤から協会の業務の状態を説明報告していたが、これらの会合は不定期で多数集つた時でも一二名にすぎなかつた。協会として従来なした業務はテレビ等の家庭電気器具を都内の教職員(会員であることに関係なく)及びその家族に対し割安な月賦払いで、販売したにすぎず、それから入る八ないし四パーセント位の割戻金によつて協会の運営費(事務四名の俸給も含めて)にあてていたこと。
(二) なお、被告伊藤本人は昭年三三年一一月八日北区教育会館において四、五〇名の者が集り協会の創立総会を開催し、それまで定款案(乙第一号証)だつたのが、そのまま承認されて定款になり、以後理事会の決議によつて協会の運営がなされて来ている趣旨のことを述べているけれども、信用できない。即ち右被告本人尋問によれば、右総会の議事録はなく、従つて誰が出席したが不明であること、未だ定款という正規の書面が作成されていないこと、右総会以外に総会を開催したことがないことが認められ、この認定事実からすれば、創立総会というものが開催され定款が成立したとは考えられないからである。
(三) 更に協会の会員名簿として提出された乙第三号証はその形式自体から判断して果して正規に申込をした会員を登載したものであるかどうかうたがわしく、証八寺坂いちの証言によれば協会は発足以来会員の加盟手続をした事実がないことが認められ、他に協会が会員として入会した者の氏名、員数を把握していることを肯認するに足りる証拠はないので、右協会を構成する会員の有無も明確でない。
(四) 又協会の理事者名簿として提出された乙第二号証には理事として六七名登載されているが、協会の定款案である前記乙第一号証によれば理事は総会で選任することとなつているが協会の総会が成立したことを首肯するに足りる証拠がないことは右(二)で説示したとおりであり、他に如何なる方法でこれらの者が理事に選任されたかにつき合理的説明のつく証拠もないので、乙第二号証に理事として登載されている者が協会の理事とは認められず、前記(一)に認定したように名目上の十数名の理事があつたにすぎないことになる。
以上(一)から(四)までの事実を考え合わせると、協会は特定した社員により構成された、社員から独立した社団として、社団法理を適用し得るには至つていないというほかはない。
従つて被告伊藤が右協会のためにその代表者の資格でなした本件売買契約であるけれども、右協会が権利能力なき社団としての実体をそなえていない以上、被告伊藤個人として本件売買契約の買主たる責任を履行する義務があると解するのを相当とするから、同被告は原告に対し前記売買掛残代金の支払義務があるといわねばならない。」